0.7W/㎡K(断熱等級4)
市街地に増え続ける負の遺産、空き家を自宅として改修し、何年か暮らした後に第三者に売却して、自身は次の空き家を改修して移り住んでいく「ヤドカリプロジェクト」という取り組みを進めている。この住宅はその1棟目である。このように空き家を再利用することは、建材の使用量を抑えて建材の運搬にかかる二酸化炭素やコストも削減でき、「脱炭素のチャンス」ととらえることができる。住宅街の傾斜地に見つけた築58年の小さな空き家は、南側に崖を背負っていた。不動産的にはネガティブに評価される崖を「静かな庭を規定するエレメント」ととらえ直し、間仕切や天井を撤去してワンルーム化した建築を、庭に向けて開き、屋内外を一体にすることで既存の建築や敷地がもつ可能性を最大化することを目指した。この手法で1つ1つの空き家をポジティブな存在に変えていく。改修工事では天井も撤去し、建物の構造をそのまま露す内部空間にした。明るい光が床にバウンドし、室内全体はグラデーショナルな反射光で満たされる。既存建築の形式を活かして、光の諧調のなかで居場所を選びながら暮らせるようにと考えた。現在、この家は新しい住人の手に渡り、設計者自身は新たに改修した空き家に移り住んでいる。
設計 | リージョン・スタディーズ |
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施工 | 水田建設 |
所在地 | 静岡県浜松市(6地域) |
家族構成 | 夫婦+子ども |
構造 | ― |
敷地面積 | 187.70㎡(56.77坪) |
建築面積 | 54.10㎡(16.37坪) |
延床面積 | 57.21㎡(17.30坪) |
完成年月所 | 2018年2月 |
断熱性能(UA値) | 断熱等級4(0.7W/㎡K) |
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気密性能(C値) | ― |
屋根・天井 | 高性能グラスウール16K200mm |
外壁 | A種押出法ポリスチレンフォーム3種bA50mm |
床・基礎 | A種押出法ポリスチレンフォーム3種bA50mm |
窓 | アルミサッシ[Low-E複層ガラス] |
暖房設備 | 床置きエアコン6.7kW |
冷房設備 | 床置きエアコン5.6kW |
給湯設備 | エコキュート |
換気設備 | 第3種換気 |
耐震性能 | 耐震性能耐震等級3(Iw値1.53) |
その他 | 既存住宅性能表示、劣化対策等級3取得 |
価値を“付け加える”のではなくて、価値を“探していく”ように最小限の手を加えて、敷地やもとの住宅がもっているポテンシャルを引き出すリノベーションが完成しています。空き家をポジティブにとらえ、改修しながら移り住むという「ヤドカリ」の発想も新しく、面白いと感じました。改修コストをかけてじっくりと工事をすることももちろん大切ですが、「そこにあるものに適度に手を加えて使い続けていく」という、社会的意義のある仕事といえるでしょう。