日本エコハウス大賞2019

リノベーション大賞

漢方の本陣 松井郁夫建築設計事務所

UA値=0.57W/㎡K C値=2.3c㎡/㎡ 一次エネルギー消費量=159.36GJ/戸・年

滋賀県北部の古い街並みが残る木之本宿に建つ築275年の古民家の再生。北国街道を往来する参勤交代の本陣にもなった、江戸時代からの薬屋であった。昭和40(1965)年に店舗機能が隣地ビルに移され、この建物は住居として利用されていた。外観は雨雪の影響で傷みが激しく、度重なった豪雪による傾きを止めるため、内部には鉄骨が入れられていた。
座敷が連なる昔ながらの部屋内は、暗くも寒くもあった。そこで、耐震性能と温熱性能の両方を向上させる設計を行った。
耐震改修については、建物全体の傾きを直し、傷んだ柱を根継ぎにより新しい材と入れ替え、金輪継ぎで新旧の柱を一体化した。また、外されていた足固めを根跡に沿って再挿入した。限界耐力計算により、耐力要素が必要な壁位置を割り出し、足固めと厚板と貫により耐震補強を施した。精密な補強の結果、既存の鉄骨補強は取り外せ、真壁の美しい吹抜け空間が誕生した。リビングには吹抜けを介して、2階窓からの明るい光が差し込む。

DATA

施工 橋本工務店
所在地 滋賀県長浜市
家族構成 夫婦+子ども2人
構造 木造軸組構法
敷地面積 844.00㎡
延床面積 312.93㎡

省エネルギー性

UA値 0.57W/㎡K
ηA値 1.2(冷房期)、1.3(暖房期)
C値 2.3c㎡/㎡
一次エネルギー消費量 159.36GJ/戸・年
地域区分 5
屋根・天井 吹抜け部:セルロースファイバー300㎜
その他:スタイロフォーム3B 160㎜
外壁 スタイロフォーム3B 80㎜
床・基礎 スタイロフォーム3B 80㎜
「APW330」(YKK AP)
気密 気密パッキン
ウレタン吹付け
冷暖房 床置エアコン(ダイキン)
給湯 エコジョーズ(リンナイ)
換気 第3種換気
創エネなど
その他 限界耐力計算による構造検討
  • 奥様のグランドピアノが置かれるリビング・ダイニング。演奏時には2階のロフトが聴衆の席となる

  • 瓦・看板・格子は既存のまま、外壁の黒漆喰・建具には既存補修を行い、北国街道にふさわしい江戸時代から続く外観を保存した

  • 外されていた足固めを根跡に沿って再挿入した

  • 改修前は建物全体に不陸があり、柱は最大で165㎜も傾いていた。傾きを止めるための鉄骨が入り、傾いたまま固定されていた

  • リビング・ダイニング空間。足固め+厚板壁による耐震補強を行った

  • 明治時代に薬剤師第一号を取得しており、観光資源としても重要な役割を担っているため、正面の店構えを残すことが求められた

  • 北東側の庭をリビングから見る。裏庭には景石のある庭を配した。蔵や離れがある豊かな環境

  • 平面図 S=1:150

  • リビング・ダイニングに設置された床置きエアコン。室内と床下に送風する。部屋の雰囲気を壊さないように格子の本棚を取り付けた

  • 仏間の床下に循環ファンを設置しリターンを図っている

  • 配置図

  • 断面図 S=1:150

審査員講評

総合的に高いレベルの古民家再生がなされています。断熱改修が行われ十分な数値が出ていますが、それでも高額なランニングコストがかかっている点が議論に上りました。コストや建物の条件にもよりますが、局所断熱などを取り入れることによってさらに高い省エネ性が実現できるでしょう。やるべきところにしっかりと手を入れ、残すべきところは残す。「時」という得がたい価値を見事に次世代に受け継いだ、お手本となるリノベーション作品といえます。