大間の家 -松前パッシブハウス -
UA値=0.26W/㎡ C値=0.15cm²/m² 一次エネルギー消費量=53.31kWh/m²・年(24.66GJ/戸・年)
「大間の家」の計画地は、のどかな田園風景が三方に広がり、その先には美しい山の稜線が眺められ、ただ素直に南を向いていた。ここで究極のパッシブデザインが成立しなければ、一体日本中のどこで成立するのだろうか、という大きなプレッシャーもあった。
設計にあたり現地の気象データを読み込み、日射取得状況や外皮からの熱損失を把握しながら外皮や開口部のデザインを行った。この地域での設計は、冬だけでなく、夏のことも考慮しなくてはならない。たとえば、地元のバイオマスエネルギーを利用している冬の暖房に対し、電力を使用する夏の冷房。そこで夏の冷房負荷を減らすために基礎の外断熱を100㎜厚から50㎜厚へと変更、夏の地盤への放熱の割合を増やした。その結果、暖房負荷は若干の増加となったが、年間の一次エネルギー総量は削減された。また、庇では対処できない東西からの夏の日射は、開口部のガラス間に内蔵された電動ブラインドで遮蔽している。
唯一悔やまれるのは、エコ浄化槽の設置が叶わなかったこと。海外では大きな関心を集める日本発の優れた技術が、国内では浄化槽法違反とは大変残念なことだ。
アイランドキッチンに内蔵された薪調理器が、この家の心臓部。冬は夕暮れになると、このストーブに火が灯され、煮炊きをしながら家族の入浴のためのお湯が沸く。北側に配置した脱衣室のタイル床やトイレの土壁にも薪ストーブからの温水が送られ、高齢な親世帯に優しい水回り環境を確保している。また、外壁に厚さ40㎜の土を塗り、全ての居室を土壁に面して配置。気流は止めるが防露はしないというコンセプトで、外壁には気密シートを使用していない。大間の家は独・パッシブハウス研究所の認定基準を満たす外皮性能を有しながら、太陽熱エネルギーや薪(バイオマスエネルギー)といった再生可能エネルギーを活用することで、一次エネルギー消費量を大幅に削減。太陽光発電によってプラスエネルギー仕様となっている。実際のエネルギー消費量のモニタリングを経て、将来的には最小限の蓄電池の搭載で自立運転への切り替えも視野に入れられている。
設計 | キーアキテクツ |
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施工 | アーキテクト工房Pure |
所在地 | 愛媛県伊予郡松前町大間 |
家族構成 | 両親+夫婦+子供2人 |
構造 | 木造軸組構法 |
敷地面積 | 462.61㎡ |
延床面積 | 154.84㎡ |
UA値 | 0.26W/㎡K |
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η値 | ─ |
C値 | 0.15cm²/m² |
一次エネルギー消費量 | 53.31kWh/m²・年(24.66GJ/戸・年) |
地域区分 | 4 |
屋根・天井 | ウッドファイバー300㎜ |
外壁 | ウッドファイバー200㎜+土壁 40㎜ |
床・基礎 | 付加ビーズ法ポリスチレンフォーム 50㎜ (基礎立上り 防蟻付加ビーズ法ポリスチレンフォーム 120㎜) |
窓 | アルミクラッド木製トリプル/ペア+内蔵ブラインド |
気密 | 屋根:調湿気密シート、外壁:構造用面材気密テープ目貼り |
その他 | ─ |
冷暖房 | 暖房:薪調理器15kW 冷房:床置き型エアコン2.8kW |
給湯 | 薪調理器+太陽熱温水+エコジョーズ |
換気 | 第1種熱交換換気システム |
創エネなど | 太陽光発電4.4kWp |
日本のエコハウス界において、トップランナーと言っても過言ではない素晴らしい作品です。性能の高さを保持しつつ、外とのつながりを重要視し、そしてデザイン的にも隅から隅までそつなくまとめあげた「空間の強さ」を感じます。理に適った方法を理解した、実にいい仕事ではないでしょうか。この作品が建てられたエリアは愛媛県。のどかな田園風景のなかに建つエコハウスは、立地条件が良く、恵まれた敷地だと言えるでしょう。この先、都市部や寒冷地などの条件の厳しい地域での実績も知りたくなる完成度の高い作品だと評価します。