日本エコハウス大賞2019

優秀賞

金曲の家 菊池組

UA値=0.18W/㎡K  C値=0.1c㎡/㎡ 一次エネルギー消費量=516MJ/㎡K

青森県下北半島では、1年の3分の1が雪に閉ざされる。本州最北という地理的な閉塞感と厳しい寒さから、人は自然を恨み、この地に生まれたことすら呪ってしまいそうになる。そんな地域で人々が明るく幸せに暮らすために、普通の家族が普通の予算で建てられる「エコハウス」をつくることが工務店の使命と考えている。
雪国の家づくりは「雪との戦い」から始まるが、この家では融雪・消雪システムや除雪機などの設備に頼るのではなく、建築的な手法で解決。車庫と1階屋根を連続させて降雪時の通路を確保し、1・2階とも緩勾配のフラットルーフにして、雪を風に飛ばさせて積もりにくくした。いわば、雪を「いなす」方法である。また、シンプルで合理的なプランによって、断熱性能はHEAT20−G3グレードを無理なくクリア、積雪荷重も考慮したうえで耐震等級3も実現した。

DATA

施工 菊池組
所在地 青森県むつ市
家族構成 夫婦+子ども2人+母
構造 木造軸組構法
敷地面積 258.18㎡
延床面積 133.32㎡

省エネルギー性

UA値 0.18W/㎡K
ηA値 0.9(冷房期)、1.1(暖房期)
C値 0.1c㎡/㎡
一次エネルギー消費量 516MJ/㎡K
地域区分 3
屋根・天井 ロックウールブローイング820mm(一部520mm)
外壁 高性能グラスウール28K105mm(充填)+ネオマフォーム100mm(外張り)
床・基礎 基礎外側:パフォームガード100mm 
基礎内側:ミラフォームラムダ75mm 
土間下:パフォームガード100㎜
「APW430プラス」(一部内窓併用)/「APW330」(内窓併用)
気密 ポリエチレンシート他
冷暖房 暖房:床下エアコン 冷房:階間エアコン
給湯 寒冷地仕様エコキュート
換気 ダクト式全熱交換換気システム
創エネなど
その他 耐震等級3
  • 正面外観。ガレージを含む1階の外壁や軒天は、下北半島産のスギを下北の製材所で挽いた赤身板を用いたファサードラタン(外壁の熱や湿気を排出するために透かし張りにする)。無垢セメント板と組み合わせている

  • 敷地の隅は道路境界線から板塀をセットバックさせ、道路側にも植栽することで敷地内に立つ太い電柱と控え柱の存在感を薄め、交差点の見通しを確保するとともに、町に緑を添えている。駐車スペースはコンクリート洗い出し仕上げ。雪掻きのしやすさと滑り止め効果を経済的に両立している。

  • ウッドデッキを半島型にしたことで、デッキ上からも室内のテラス窓からも庭木を近くに感じられる。庭づくりは建て主と設計担当者で協働した。在来種を中心に市販の植物を植え付け、地元の川砂利で河を、地元の土と石を使って築山をつくった

  • 南側に吹抜けを設け、上部はコーナー2面を窓にして冬の日射を十分に採り込む(夏はハニカムブラインドで遮蔽する)

  • 吹抜けの天井にはシーリングファンを設置。吹抜けに面する2階居室は、障子で仕切ることで、室内に光を取り入れながら道路からの視線を遮っている

  • 矩計図 S=1:80

  • 平面図 S=1:200

  • 南面のテラス窓のみトリプルガラスではなく、Low-E複層ガラスとし、既製品の木製内窓(普通複層ガラス)を併用。その間にハニカムブラインドを挟み込んでいる。ハニカムブラインドは、上下に開閉できるタイプにして、上から下に下ろすだけでなく下から上へ引き上げ、庇で遮蔽できない下部のみの遮蔽を行う

  • 脱衣室には床下エアコンを設置している。また、エコキュートの貯湯タンクも脱衣室内に設置して、放熱ロス軽減と、脱衣室の加温にも役立てている

  • 玄関土間は、墨モルタル仕上げ。リビングとの間は間仕切りを設けず、家具で仕切っている。建具、家具、キッチンは安価なラワン合板で製作

  • 室内の壁・天井は紙クロス張りの上に、地元・むつ湾産ホタテ貝殻の残渣(産業廃棄物)を再利用して主原料とした塗料で仕上げた。ペンダントライト、スタンドライトは、青森県産ブナ材を使って県内で製造するブランド「bunaco」

審査員講評

応募作品のなかでも、性能・デザイン・コストのバランスが極めてよい作品です。特に日射遮蔽の工夫が秀逸で、木製内窓の中間層にハニカムブラインドを入れるなど対策をよく練っています。このように納めることでデザイン的にもシャープな仕上がりになり、“新しさ”を感じることができました。夏場の温熱環境については議論に上りましたが、青森県むつ市の地域性を考えると許容範囲でしょう。小さな工夫があちこちにあり、建築の広がりが感じられる点も好感がもてます。