【第5回日本エコハウス大賞2019】グランプリは、サンハウス「はじめてのエコハウス 水戸の家」に決定!

2019年11月13日、東京ビッグサイトで開催された「ジャパンホームショー」内にて、「第5回日本エコハウス大賞 2019」公開審査と表彰式を実施いたしました。

本コンテストは、意匠と性能の両面から優れた住宅を表彰する住宅コンテストです。新築部門、リノベーション部門、ロングライフ部門に分かれ、合計74社からのエントリーがありました。公開審査では、1次審査を通過した4作品のファイナリストにそれぞれのエコハウスの魅力を発表していただきました。

本サイトでは公開審査で行われたプレゼンテーションと質疑応答の様子をレポートいたします。

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■■大賞/サンハウス「はじめてのエコハウス 水戸の家」■■

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サンハウスは茨城県水戸市の地域工務店。プレゼンターの野辺裕章さんは、緊張した面持ちだが、力強くゆっくりと話す姿が印象的だった。プレゼンテーションのタイトルは「はじめてのエコハウス」。エコハウスに初めて取り組んだ作品がコンテストの予選を通過してきた点に参加者一同の注目が集まった。

はじめてエコハウスづくりをするにあたって、施主の理解と協力が必要だ。普段、2000万円~2500万円の家を手掛けるサンハウスでは、これまで長期優良住宅はつくってきたものの、それ以上の高断熱高気密住宅を提案する機会が少なかったという。今回は普段よりもイニシャルコストはかかったが、それでもランニングコスや将来的にかかる費用を算出し、12~13年で経済的な負担はプラスマイナス0になることを提示した。

「未来に向けてのエコハウスは外部環境を生かす家。外部環境を楽しめる家だと考える」と話してプレゼンテーションを締めくくった野辺さん。町に大きく開いた外構プランに対しては、三澤審査員からも「このように魅力的な外構の計画ができるのは感心します。私も一度やってみたいと思うほど」と称賛の声があがった。水戸の景勝地「偕楽園」からインスピレーションを得たという庭には、水戸特産の芝を使い、「水戸黒」という伝統色を模した建物外観がよく映える。

また西方審査員からはUA値に対する冷暖房設備の過剰さに対する指摘が入ると、野辺さんはこのように答える。「初めての高気密高断熱住宅ということで、いくら知識を蓄えて挑戦しても結露を恐れていました。施工については、実際にエコハウスに取り組む寒冷地の工務店で大工を教育しましたし、施工指導も仰ぎました。しかし、スペックだけは試さないと分からないので過剰になった背景があります」とのこと。はじめてエコハウスに挑戦した過程で悩み、課題解決した方法も明らかになった。

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「工務店として設計も手掛け、性能や設備を学ぼうという姿勢がすばらしい」と伊礼審査員長。会場の参加者たちの審査ポイントでも半数以上を獲得し、サンハウスが見事、大賞となった。「はじめてのエコハウス」はこれからエコハウスをつくろうとする人たちへ勇気を与えたことは間違いないだろう。

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 ■■優秀賞/空設計工房「熊本パッシブハウス 嘉島の家」■■

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凛とした表情で登壇した福岡県の空設計工房の江藤眞理子さん。以前からパッシブハウスを手掛け、今回エントリーしたプロジェクトもドイツのパッシブハウス認定を申請中だという。真冬の1月に撮影されたリビングでくつろぐ家族の写真からは、暖かく快適な暮らしぶりが伝わってきた。

建物の配置はシミュレーションに基づいて考案。敷地のなかでも、隣家(母屋)の影響を受けずに冬場の日射がとれるところに配置した。平面プランは、シンプルで行き止まりのない回遊性のある動線を取り入れた。このプランは一次審査のときも評価が高く「シンプルで美しい」と大賞候補にノミネートする理由にもなった。

プレゼンテーションで印象に残ったのは、光の使い方だ。ハイサイドライトからの光の落ち具合や障子を通してダイレクトゲインを得る蓄熱土間などが特徴的だった。南面の窓計画については前審査員から質疑があると、性能を担保すると同時に、隣家とのプライバシーを確保するところなど設計の経緯を回答。さらに前審査員からは「手堅く地道にエコハウスに取り組んでいて完成度が高い作品です。技術論だけで考えれば一番ではないでしょうか」と称賛のコメント。

伊礼審査員長から普段の家づくりで地域材を使っているなど意識している点について質疑があると、「九州の設計事務所ですから、九州産の木材にこだわっています。今回のプロジェクトでは熊本県の補助金を得て県産材を使っている」と回答。建て主の親族が製材工場という恵まれた環境で、選りすぐりの木材を使っているとも話した。

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またデザイン面においては審査員の意見が割れた。伊礼審査員長は、「奥様の意見に耳を傾けて実現した住みやすいプランを評価します。建築は設計者の社会に対する思いを描くものでもあってほしいと思うので、そこに課題を感じました」と指摘。一方で西方審査員からは「デザインについては設計者それぞれの考えがありますが、設計者らしさを出さずに住まい手が主体となったデザインも良さがあるものです」と評価のコメント。

審査員同士のディスカッションも見られたライブ感あふれる審査の一幕を会場一体となって体感することができた。

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 ■■優秀賞/MUK+西紋建匠「南丸保園の家」■■

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プレゼンターは大阪府のMUKより村上あさひさん、西紋建匠より施工管理を務めた西さんの2人。このプロジェクトの建て主のニーズは、「緑を感じて暮らしたい」「静かで温かい」「自然環境に優しい」「家族が互いの気配を感じられる」「災害への備えとしても必要な設備を」など。建て主の断熱性能の優先順位は高くなく、そういった背景のなかでエコハウスに取り組んだ経緯を紹介。最終的な建て主の感想は、「3日泊まってもらったら誰でも快適さがわかります」と性能の部分を高く評価してもらったという。

プランはひし形の敷地に「への字型」の建物を配置するプランだ。長方形に近いプランも検討したそうだが、建て主の意向によって「への字型」を採用し、庭のグリーンをどこからでも見られるプランとした。この形にすることで、部屋どうしの見通しもよく、どこにいても家族の気配を感じる住まいになった。

プレゼンのなかで「3点セット」と話していた災害対策が印象的だ。「太陽熱給湯」「雨水タンク」「太陽光発電パネル」を設置することで、万一のとき一時的な災害対策が可能となる。特に雨水タンクをトイレの洗浄用に使うように設計したことは、実際に台風被害があったときに安心できたという。松尾審査員から社会性についての質問があったが、この災害対策が社会性についての回答だった。

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西方審査員からは、社会性のコメントを受けて「断熱材にコストがかかっていない点が良い」と経済的な負担の少なさを評価。前審査員からは、日射について真南の南中時以外の太陽高度を入念に検討した方がよいという指摘があった。

伊礼審査員長は真壁でエコハウスに挑戦している点に注目。「真壁が好きなので、性能のためにあきらめるのは仕方がないことだと思っていた。しかし勉強していくうちに気密の取り方や断熱材の厚さを計算すれば、真壁でもエコハウスが実現できることが分かりました」と設計者のチャレンジの痕跡も明らかになった。伊礼審査員長は「真壁でC値0.4c㎡/㎡は素晴らしく、それ以上に真壁への想いを大切にしていたところを評価します」とコメント。

プレゼンの最後には「これからも住んでみていいなと思ってもらえるエコハウスをつくり続けたい」と力強く話す村上さん。晴れ晴れとした表情で、今後を見据えた言葉でプレゼンを締めくくった。

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 ■■優秀賞/菊池組「金曲の家」■■

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「コンセプトは、普通の家族が 普通の住宅地に 普通の予算で建てる家」とはじめに力強く述べた菊池組の菊池さん。青森県むつ市は、冬は日本海側の偏西風が吹き込み、そして夏はどんよりと天気が悪い日が続く地域である。この家が建つのは分譲住宅地の一角で、着工したときは隣地に1件も家が建っていなかったため、どんな家が建つのか想像しながらの建築だったという。プランは、方位などを読み解いてシンプルに考えた。

このプランに対して、伊礼審査員長からは「南側にガレージがある理由」について指摘が入る。初期プランではガレージは南側に配置していなかったが、「車庫と玄関の関連を考えてこの配置にしている」と回答。雪国の生活では欠かせない動線だ。地域性については、地域産の素材を使って、地元の職人の手によって建てられたことを訴求した。

議論の的になったのは「普通の予算」についてだ。窓廻りの断熱など汎用品を使ってコストカットしている点をプレゼンすると、西方審査員からはさらにローコストになる工夫の提案が示された。断熱材の厚さについては審査員数名から充分すぎるほどの厚さの割に、価格的に良心的だと、驚きの声が上がった。

また、第5回エコハウス大賞候補のなかでもフラットルーフの家は「金曲の家」のみで審査員たちの建築に対する考え方が垣間見えた。三澤審査員からは「屋根が緩勾配だと雨仕舞が心配ではないか」との指摘が入ると、性能面での説明があったうえで「地域性という面で、フラットルーフにすると雪が飛んでいくので雪下ろしが楽になる」という理由付けがあった。すると西方審査員も「私が設計する場合でも雪国は雪対策の面でフラットルーフが多くなっていくが、デザインするのが難しい。菊池組の作品もデザインが悪いわけではないが、もっと突き抜けることはできるのではないか。私自身もフラットルーフのデザインをうまく消化できるように勉強中だ」とコメント。このコメントを受け、伊礼審査委員長は「沖縄はコンクリート造りだが箱型の家が多い。マッシブ(かたまりのような)なデザインの魅力を押し出していくには、かきこむという方法も一手である。四角いイメージを強調するために、凹ませて美しく見せる工夫ができる」とのこと。審査員それぞれのフラットルーフに対する考えも明らかになった。

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プレゼンの最後には、プレゼンターの菊池さんが考える「普通の家」、つまり「エコハウス」についてこのように話す。

「私が考える普通の家とは、誰でもつくれ、豊かな暮らしが伝えられる家のこと。そして身近な人の幸せ、中距離の幸せ、ひいては遠距離、未来の子どもたちの幸せまで考えた家です。私はそんな家づくりをしていくことが目標です」。

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■■各審査員の総評■■

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東京大学大学院 工学系研究科 建築学専攻 准教授・博士(工学)
前 真之氏

今年で日本エコハウス大賞が最終回となりました。その最後のコンテンストにどのような作品の応募があるのかと非常に楽しみにしていました。

今回の大賞は、「はじめてエコハウス」を建てた茨城県の工務店サンハウスが見事受賞。この流れは非常に嬉しく感じます。これまで積み重ねてきた試行錯誤からエコハウスにもさまざまな流れができ、「エコハウスに取り組むと何だか面白そうだ、自分もやってみよう」と多くの設計者たちの背中を後押ししていた証でしょう。

住宅性能においては冬暖かいのは半ば当然となってきた。しかし夏の日射遮蔽については課題感が残っています。地域や季節の太陽高度を理解したうえで日射遮蔽に取り組むことで、さらに理にかなったエコハウスができあがるでしょう。

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松尾設計室 代表取締役 パッシブハウスジャパン理事
松尾 和也 氏

わずか5年でこれほど住宅が進化するのかと愕然とするほど、日本エコハウス大賞は日本のエコハウスのなかでも「トップ オブ トップ」が集うコンテストに成長しました。エコハウスのオリンピックと言えるほどのレベルの高さです。

5年間審査員をしてきて感じたことは、エコハウス自体のレベルが底上げされているのは間違いなく、それに伴って審査も格段に難しくなっていることです。0.5ポイント刻みの配点がしたくなるほどレベルの高い住宅が増えました。

そういったなかで、今後、さらなる伸び代を考えたときに、冷暖房計画、シミュレーションに基づいたプラン、そしてそれを人に伝えるプレゼン資料の作成能力の3点が、他と差がつくポイントになってくるでしょう。最後に、これまで応募してくださった設計者の方々が力をつけて、各地で影響力のある家づくりができるようになることを強く願っています。

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Ms建築設計事務所 代表
岐阜県立森林文化アカデミー客員教授
三澤 文子 氏

日本エコハウス大賞の審査では性能や意匠のほかに地域性や社会性も同時に思索しました。地域性とは、地域材を使うことや、地域のつくり手がつくることで地域経済をまわす、風土に合った性能や佇まいであり、見るだけで地域の人の気持ちが安らぐ住宅であることなどだ。社会性は、世の中をよくするために変えていこうとする継続的な活動、すなわち社会貢献活動だと考えて、採点をしました。

私自身もリノベーションの物件をたくさん手掛けてきましたが、性能・意匠・社会性や地域性などにおいて完璧なものをつくることは極めて難しいと感じています。皆さんの苦労の足跡が手に取るようにわかりました。日本エコハウス大賞は今回で区切りがつきますが、さらに実力のある設計者がこのようなコンテストに挑む姿を見てみたいです。

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建築家
西方 里見氏

エリアに合った適切な設備や断熱材の選択は経験が必要です。いくつか過剰な仕様や、仕様と価格が合っているのか疑問に思う点もありました。正しいアイテムを選択できれば、費用を抑えたエコハウスが実現できて、つくり手も住まい手も幸せな関係を築けるでしょう。

今回で日本エコハウス大賞が終わってしまうことはもったいないことだと感じています。この住宅コンテストは、もはや日本のエコハウス業界の情報発信基地といっても過言ではないでしょう。ここから新星が現れてはメディアに出て、それによってエコハウス自体の価値も高まっていきました。これからもエコハウスの裾野が広がるような機会に期待したいと思っています。

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建築家
伊礼 智 氏

思い出すのは5年前、審査員の打診があったときに私は、「コンテスト名はエコハウス大賞ではなく、日本エコハウス大賞に」とお願いしました。「エコハウス」の定義が難しいのは理解しているが、日本のエコハウス文化、さらには「自分らしいエコハウス」を確立していきたいと、私自身が感じていたからです。私自身のエコハウスという面では、今もなお模索している最中です。

審査では、さまざまな得意分野をもった審査員たちと議論をすることで、何より私が勉強させていただきました。これからも、この日本エコハウス大賞のように日本において性能と意匠のバランスが取れた住宅を真っ向から考える機会があることを願っています。

■■『建築知識ビルダーズ』 編集長 木藤阿由子より、今後について■■

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はじめに、大勢の前で語り、審査員の質疑に応答するという過酷なプレゼンテーションに挑んだ4者の方々に、今一度お礼をいいたいと思います。また、この賞のコンセプトに賛同し、サポートしてくださった協賛企業の方々にもこの場を借りて感謝申し上げます。

さて、5回目を迎えた日本エコハウス大賞ですが、今回で最終回となります。このコンテストは、5年前に「2020年に省エネ基準が義務化になる」という話がもちあがり、それまでに性能と意匠が両立した魅力的なエコハウスを世の中に提唱することを目的として立ち上げました。そして来年2020年を迎えます。省エネ基準の義務化自体は見送りとなりましたが、5年経った今、当時からは想像できないほど高いレベルの「性能と意匠が両立したエコハウス」が増えてきたことを嬉しく思っています。

私は、エコハウスの正解を示したくてこのコンテストを開催したわけではありません。住宅設計の可能性をみなさんと共有し、それが次の良質な住宅をつくるエネルギーになることを願って続けてきました。工務店や設計事務所にとっては1年に1度の腕試しの場となり、この場に足を運んでくださった方々や『建築知識ビルダーズ』の読者にとっては、今後の目標を定める場になったらよいなと。こうした場づくりを誠心誠意取り組んでくださった審査員の先生方には感謝しかありません。

日本エコハウス大賞は2020年1月28日のシンポジウムでいったん幕を下ろしますが、それはあくまで第一幕が終わったにすぎません。エコハウスの先にある住宅の姿、2020年以降に私たちが目指すべき住まいのかたちが定まったときに、第二幕の幕開けとなります。住宅を生業とするプロたちが切磋琢磨し、日本の住宅のレベルアップを目指す“賞&SHOW”をこれからも続けていきたいと思います。その時がきたら、皆さまにはぜひ応募という形で応援・協力していただけたら幸いです。

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第5回日本エコハウス大賞の受賞作品の詳細は、
『建築知識ビルダーズno.39』でご覧いただけます。
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表紙

取材 高橋かずえ
撮影 加々美義人