【第3回日本エコハウス大賞2017】グランプリは、キーアーキテクツ「大間の家 -松前パッシブハウス-」に決定!

2017年11月16日、東京ビッグサイトで開催された「ジャパンホームショー」内にて、「第3回日本エコハウス大賞2017審査会」を実施いたしました。
2017年の応募数は104作品。前回から40近く上回る作品数の応募があり、大賞候補の4作品は一次審査で選抜いたしました。審査会は、その大賞候補の応募者による公開プレゼンテーションと公開審査を行うのが目的です。

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厳正なる公開審査の結果、最優秀賞はキーアーキテクツ「大間の家 -松前パッシブハウス-」に決定! さまざまな議論があった中で、本作品の「チャレンジする姿勢」を評価いたしました。

このページでは審査会で行われたプレゼンテーションと質疑応答の様子をレポートいたします。

■最優秀賞 キーアーキテクツ「大間の家 -松前パッシブハウス-」

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大間の家は、「南を向いてパッシブに暮らす」ための条件に恵まれた、非常に立地条件の良い土地に建てられている。その分、プレッシャーも感じていたという設計者の森みわ氏。この地で施主に提案したのは46坪の2世帯住宅だった。

さまざまな議論がある外皮性能や省エネについて、森氏が考える基準についてこう話す。「私が考える性能の基準は、原発はNGです。その上で地産地消のエネルギーが活用できて、建物自体もエネルギー的自活が望める。冬でも望めるところが、建物の省エネ性能の落としどころだと考えて日々設計をしています」とのこと。また、本作品は「近い未来の普及版を作っていく」という強い志のもとで、薪調理器やカーポートの屋上緑化など、実験的な試みも多く取り入れた注目度の高い作品となった。

堀部安嗣先生からは、「建物内の動線も表動線、裏動線とよくできている」とプランに対する称賛があった反面、「外観は周りの穏やかな景観に馴染むかどうか」というコメントも。森氏からは「近隣建物がないというなかで悩みましたが、私にあえて設計を依頼した意図を汲み取りつつ、パブリックでの使い方も予定していたので、外観と内観のギャップを考えました。中に入った時の空間体験と外側の形のギャップは意識的に変化を付けたところがあります」と返答。すべてにおいてチャレンジングな姿勢が評価の対象となり、大賞へとつながった。

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受賞者のコメント
今回の大間の家プロジェクトは、たくさんのメッセージが込められた家になりました。施工と設計でよいタッグを組めたと感じています。今後も、設計者として進化をしていかなくてはならないと思いますが、今回は将来に向けた一つの形を示せたと私自身も感じています。

■優秀賞/会場賞 SUR都市建築事務所「雑司が谷ZEH」
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「エコのためのエコではない。暮らしに寄り添うことこそ、私が考えるエコハウスです」。プレゼンの始まりは、エコハウス設計のコンセプトから発表したSUR都市建築事務所の浦田義久氏。「雑司が谷ZEH」の敷地は、都会の狭小地であるばかりか、五角形の変形だ。南は開けているが、いずれは3階建てが建つ予定だと想定して、厳しい敷地条件を読み解くことが最大の課題だった。

断熱材を分厚くする手法は都市型の住宅には向かないため、さまざまなパッシブの手法を取り入れて住宅の性能を上げている。なかにはオリジナルで考えられた手法もあり、「数字的には高性能と言い難いですが、バランスのとれた性能の高さを感じています」と浦田氏。

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松尾和也先生からは「五角形の敷地に対する方位や、将来を考えたプランニングなど非常によく考えられています。周辺には高い建物が多い中で、難しい問題を高度に解いています」と称賛のコメント。前真之先生からは「これから求められているエコハウスのボリュームゾーンを考えると、このように敷地が難しいなかでどう考えるかポイントになります」との声もあった。

SUR都市建築事務所を立ち上げたころから温熱に興味を持ち、施主と共に積み上げてきた結果がすべて建物に反映されている。「エコハウスは我慢をする生活ではなく、エコハウスは生活を豊かで快適にするための必要な条件。自然を感じられてこそエコハウスだと考えます」と話し、プレゼンテーションを締めくくった。

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受賞者のコメント
このたびは大変光栄な賞をいただきありがとうございました。施主と施工者との出会いが、受賞ポイントです。エコとは、私にとって「居心地の良い住まい」と捉えております。これからも、そういう心地良さを目指していきたいです。

■優秀賞 オーガニックスタジオ新潟「女池の家(めいけのいえ)」 
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平家のようなあえて低いプロポーションと、建物はもちろん植栽計画まで考えられた「女池の家」。

建物の設備計画について「1階の吹き抜けの下部には暖房用のエアコン、吹き抜け上部には冷房用のエアコンを計画しました」とオーガニックスタジオ新潟の設計担当者、山下真氏。冷暖房の設備計画では、吹き抜けを通じて、暖気と冷気が循環するように計画されている。1階と2階の吹き抜け部分にあたるグレーチングは「光の回廊」と名付けられて家中に光を届ける役割を持つ。

また、リビングには勾配天井を使ったおおらかな空間が広がる。大きな開口部は、簾子と障子により光を調整し、庭の見え方も調整している。植栽計画も綿密に練られていて、家と庭をつなぐ「中間領域」としても利用できる“おこもり感”のある楽しい空間ができあがった。

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伊礼智先生からの「このレベルの住宅を本作品だけでなく普及版として建てているのでしょうか?」という質問に対し、「平成21年から家づくりに取り組んできて、コストパフォーマンスのよいものは自然と残っていきました。建築には予算や設計上のルールがありますが、この女池の家は普段の仕様で建てています」と同社相模稔氏が回答。

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堀部安嗣先生からは、「新潟という地域において、これだけ緑豊かな庭を造ったことが素晴らしいです。また、冷暖房の空調計画がよくできていて、特に冷房用のエアコンは真似したいくらいの仕組みです」と称賛のコメントがあった。
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受賞者のコメント
2015年のエコハウス大賞でもプレゼンテーターとして会場に来て、そこでは辛酸を舐める結果となり、私たち自身も非常に勉強になりました。そして2017年、今回もまた自分たちが手掛けてきた仕事を見ていただき、そして評価していただき、さらには貴重なコメントまでいただくことができました。大賞が受賞できたら応募するのは今年で最後だと思っていましたが、そうはいかず…(笑)。また次回もチャレンジできる嬉しさでいっぱいです。

■優秀賞 藤城建設「玄杢舎(GenMokuSya)」
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北海道札幌市の工務店として受賞した藤城建設「玄杢舎(GenMokuSya)」。設計者である川内玄太氏は北海道らしさをこう話す。「“素朴で力強い”。それが北海道らしさだと思い、佇まいを考えました」という。北海道の冬の雪のなかで映える住宅をテーマに、外観やプランを追求した住宅だ。

南西角地73坪の住宅街に建つこの家は、自然豊かな北海道らしさをどうやって表現するかが課題だった。そのひとつのとしてLDKには北海道のアイヌ民族の伝統的な建築「チセ」に倣って、地面に近いところに暖炉を置いた。下から暖気が上がってきて、部屋中を暖めている点が住まいの特徴のひとつである。しかも家中の温度変化は少なく、朝の一時間、炉に火を入れることで一日中暖かな室内環境が保てる。

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西方里見先生からは、「ジャポニカスタイルから離れた建築が面白く、その点を大きく評価しています。そのうえで、大開口の窓が扁平に感じます。奥まっていたほうが陰影が出て美しく納まるのではないでしょうか」とコメントがあった。川内氏は、「木製サッシメーカーとも話しましたが、この形がベストだと熟考して決めました」とのこと。

川内氏の設計の本質には「人肌の建築」というテーマがある。「木陰で涼む」や「ひなたぼっこをする」といった人間味のある居心地の良さを求めた結果、このような開口部となった。

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受賞者より
優秀賞ということで大変うれしく思います。北海道の工務店としてこの場に立てたことが名誉です。さらなる目標に向かって、これからも頑張っていきます。

■ご来賓者からのコメント
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室蘭工業大学名誉教授
新住協代表理事
鎌田 紀彦氏
私は世の中に断熱の工法を普及させようと取り組んで参りましがた、このようにたくさんの高性能住宅が並ぶと感慨深いものがあります。しかもこのコンテストは、「断熱材のぶ厚さ」を競うのではなく、「エコハウス」という言葉に落とし込んで取り組まれています。まだ「エコハウス」という言葉自体に戸惑いがありますが、的確な評価がなされていると感じました。

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i+i設計事務所 建築家
飯塚 豊氏
毎年レベルが上がっていて、どの方がグランプリをとっても納得できる結果でした。また、成熟しているコンテストだと感じ「来年は私も参加してみたい」と思っています。私は、オーガニックスタジオ新潟が、施主と施工者、監督のレベルが高く、チームワークがよくいい関係性が築けていると感じました。新潟の風土もあると思いますが、「ただエコなだけじゃない」という点を評価しています。

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構造家
山田 憲明氏
初めてこの審査会に参加して、すごく楽しい時間を過ごしました。審査員の厳しくも愛のあるコメントが胸に響いております。ただ、少し残念だったのはプレゼンの中に構造の説明がほとんどないことです。建築家がデザインするときに「建築と温熱環境」、「建築と構造」というものは融合を図って、何らかのデザインを実現していくことがあります。しかしながら、「構造と温熱環境」の融合はまだ図られていないではないでしょうか。

また、断熱を考えるときのスペースは、構造に使えると感じました。あるいは、部材レベルで温熱性能と構造性能が同時に実現できるものが開発されるなど、そういったものが実現すると、もっと質の高い建築になるのではいかと、これからの可能性を感じています。

■審査員からの講評
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エコハウスとは何か、建築とは何か――。私の原点回帰を考える時間
建築家 伊礼智

今回、審査が非常に割れました。応募作品は地域も違いますし、都市部の狭小地があれば田園地方や地方の住宅地もあり、比べる基準が難しかったです。そうやってたくさんの作品をみていると「エコハウスとは何か?」と考え直したくなりました。

私が設計を始めた原点を振り返ってみると、それは「感動」だということを思い出しました。なんの説明もなく、建築を見たときに思わず涙が流れてくる。心が揺さぶられるなどの言葉にならない心の動きがありました。エコハウスも、その領域まで行けるといいなと感じておりますし、自分もそういう方向にチャレンジしていきたいとも感じました。

私自身も、建築って何なのか。エコハウスって何なのか。住宅って何なのか。と原点回帰できるような第三回日本エコハウス大賞になりました。

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エコ住宅の黎明期にこそ、傑作を生みだすチャレンジを
建築家 堀部安嗣

エコハウスが進歩してきています。これまでの応募作品の実践も確かなものになっており、次に向けたチャレンジを感じられて、私自身も身の引き締まる思いです。

大賞の「大間の家」は、可能性を秘めたポテンシャルがありました。そしてチャレンジしている姿勢を大きく評価いたしました。一方で、優秀賞の「女池の家」は平面プランに課題がありました。平面プランは、そこに住まう方の快適性、心身に与える影響などが大きいものですから、もう一歩踏み込めたら、さらに素晴らしい住宅になったと感じました。

次に鎌田紀彦先生とトークセッションしたときの話題に触れたいと思います。鎌田先生はセッションのなかでこのように話されています。

「鉄が建築に使われるようになったときに、その時代の建築の傑作ができあがりました。次に、鉄筋コンクリートの工法が定着してきて、ル・コルビュジエや丹下健三の傑作が生まれてきました。そして現在、高断熱・高気密という工法と、高性能素材が確立されてきています。まだまだ黎明期ですが、黎明期には傑作が生まれなくてはいけません。ぜひこの機会に傑作を生んでほしい」と。

また、構造家の山田憲明先生が話すように、温熱だけ教科書的に取り組むのでは傑作は生まれません。構造、プラン、ときに断熱・気密に取り組むことで、ジャンプアップが図れるのではないかと考えています。私自身、建築家としてチャレンジし、ジャンプアップした建築を作りたいと思います。

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水、水蒸気、熱、そして力。自然の摂理に従い建築をデザインする
建築家 西方里見

日本エコハウス大賞に受賞された皆さん、おめでとうございます。現在は、建築の過渡期であり、設計者・建築者としてはチャレンジをすべきタイミングだと考えています。私の最近の取り組みは、構造家の山田先生とタッグを組んで3,000平米ほどの大型木構造を造っていることです。その建物には荷重から基礎までの「力の流れ」があり、「木造の楽しさ」をひしひしと感じているところです。

この大型木構造の経験をもとに改めて感じました。自然の摂理にしたがって素直に建築することが大切だと。それは自分自身の考えだけで家を組み立てることが設計ではなく、自然の摂理に従った建築をデザインすることが大切ではないでしょうか。

水の流れ、水蒸気の流れ、熱の流れ、そして力の流れ。そういった自然の摂理を踏まえた住宅づくりが、今後さらに必要になってきます。

私も含めて、業界全体が住宅づくり、建築づくりの過渡期にいます。この時代を一緒に生きる仲間として、日々切磋琢磨し、そして時代を作っていく馬力がほしいと思っています。

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バランスがとれた設備計画も視野に入れて
松尾設計室代表 松尾 和也

「雑司が谷ZEH」は、一番難しい敷地の問題と温熱を、ベテランならではの解決策で読み解いた点を大きく評価いたします。審査では、南面の開口部の窓の仕様が議論に上り、結局「大間の家」が受賞となった経緯があります。そのくらい、この日本エコハウス大賞に至っては、窓が弱い家ははねられます。

応募作品を見ていると、断熱性能がものすごく上がってきています。そこで来年以降は設備設計が一つの課題としてあげられるでしょう。今回の応募作品のなかには、性能が高い住宅であるにも関わらず、業務用の大きなエアコンが取り付けられたものもあって、バランスの悪さを感じました。

イニシャルコストとランニングコストを考えている作品と、そうでないものとの差が大きかったので、難しい敷地を読み解くことと同時に、上手な空調計画も来年以降の分かれ目になっていくでしょう。

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現時点でできる限りの取り組みが見られた審査会
東京大学大学院准教授 前真之

私が初めにプッシュしていた本審査のコンセプトは、「リーズナブルで高性能」です。今回は北海道から「玄杢舎」の応募があり、それによって日本全体のエコハウスを並べて審査することができました。

狭小地のエコハウスは、多くの人の基準になると思うので、「雑司が谷ZEH」のような狭小地であり、遮蔽が多い条件の住宅からの応募があることは大事なことだと感じます。

「大間の家」は、技術的に素晴らしく、さらにはドイツの作り方だけでなく、日本の気候にもなじませようと努力している点を評価しています。来年以降は、難しい敷地での住居の例も見てみたいです。

最後に、現時点でできる限りの取り組みをされた努力の跡がどの住宅にもあり、大変すばらしい審査会でした。来年はまた、来年の方向性を見いだしていければ幸いです。

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株式会社エクスナレッジ建築知識ビルダーズ 木藤阿由子よりご挨拶
みなさん、今日はお集まりいただきましてありがとうございました。この賞はついに3回目を迎えて大変うれしく思っております。立ち上げた2015年は、ちょうど2020年に「省住宅の省エネ基準の義務化」が業界のなかで議論されていた時期でした。その「義務化になるから」という制約があることで、「縛られる」「つまらなくなる」という考えを払拭したいと思ったことがこのコンテストの始まりです。楽しいもの、楽しい手法を広げていくため、この賞を建築者の「腕試しの場」にしようと考えております。
1回目、2回目、3回目と毎年レベルが上がってきていることを感じます。これからのエコハウスというものを考えるきっかけにしていただければうれしいです。

取材 高橋かずえ
撮影 三川ゆきえ