【第4回日本エコハウス大賞2018】グランプリは、i+i設計事務所+オーガニックスタジオ新潟「グランドピアノのある家」に決定!

2018年11月20日、東京ビッグサイトで開催された「ジャパンホームショー」内にて、「エコハウス大賞 2018 公開審査と表彰式」を実施いたしました。

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本コンテストは、新築部門、リノベーション部門、ロングライフ部門の3つの部門に分かれています。今回、公開審査を行ったのは新築部門になります。新築部門、応募総数87作品のなかから、一次審査を通過した4作品のプレゼンテーションと公開審査を実施。プレゼンや審査員との質疑応答を見て、会場にいる参加者たちが投票できることも公開審査の醍醐味です。

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第4回日本エコハウス大賞2018は、厳正なる審査の結果、最優秀賞はi+i設計事務所+オーガニックスタジオ新潟「グランドピアノのある家」に決定いたしました。

本サイトでは公開審査で行われたプレゼンテーションと質疑応答の様子をレポートいたします。

■最優秀賞/i+i設計事務所+オーガニックスタジオ新潟「グランドピアノのある家」
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設計事務所と地域工務店がコラボレーションした作品。設計者の飯塚豊氏(i+i設計事務所)は昨年の第3回エコハウス大賞審査会のゲストとして来場しており「来年はコンテストにエントリーしたい」という宣言通りの展開となった。また、オーガニックスタジオ新潟は3回目の応募だ。過去2回は優秀賞を受賞、3度目のエントリーで初めて最優秀賞を獲得した。最優秀賞が発表された瞬間、相模稔氏(オーガニックスタジオ新潟)は力強いガッツポーズで、こみ上げる嬉しさを体で表現した。

本作品は中間領域をテーマに設計が行われている。建て主の要望は「リビングにグランドピアノが置ける暖かい家」だ。その希望通り、1階室内は劇場のようなワンルームを意識し、どこからでもピアノが眺められる。家の中央にはトップライトがあり、教会のような象徴的な光で上昇感を演出している。外観は新潟の風土を意識し、きつめの勾配をとった屋根と古い民家にならった杉板で仕上げた。

「エコハウスを技術性能だけで見た場合、どうしても私たちがテーマにした中間領域や風土性は枠の外に考えられる。しかし、それをあえて尊重することで古い民家が持っているような数値にあらわれない魅力や価値を建物のなかにあらわせた」と、設計者の飯塚氏は話す。

伊礼審査員からは、「半戸外を新潟ではどのように活用しているか?」と中間領域に関する質疑が。回答したのは相模氏。「会社の理念として、庭と一体の設計を掲げて積極的に提案している。庭のよさは住むことで分かる。新潟は寒冷地だからといって家と庭のつながりがないわけではなく、暑すぎないので豊かな時間を過ごせる」と回答。前審査員からは日射、松尾審査員からは耐震に関する質問が投げかけられた。三澤審査員からは「天井の杉板にトップライトからの光がたくさん集まるので、まろやかな空間ができていて素敵」と称賛のコメントも寄せられた。

受賞の最大の理由は、バランスの取れた作品であること。設計事務所と地域工務店がコラボレーションした作品という点も「あらゆる点で面白い」と評価され、最優秀賞へとつながった。

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■受賞者のコメント

飯塚氏:大きな賞をいただくのは、初めてなので非常に嬉しいです。地方工務店といっしょにいい作品ができ、しかも賞までもらえて非常に満足しています。ありがとうございました。
相模氏:設計事務所と地方工務店のコラボレーションで最強の事例ができました。弊社は社内にも設計士がいますが、今回のように外部の設計士が携わることで刺激になり、どんどん力をつけていきます。それがまたプラスの循環を生み、よい建物になり、評判を高めることにつながりました。

■優秀賞/MA住空間設計室「木と樹の家@小日向」
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プレゼンの冒頭は「家づくりは豊かさの始まりを提供する仕事」という設計者の信念からスタート。「家づくりでは、現実的な耐久性、耐震性、お客様の要望をどう叶えて、どのようにまとめるかを考えている。結果的に豊かさを感じるのはお客様」とプレゼンテーターの丸山晃寿氏。狭小の本作品には、屋上や地下空間もプランに含まれて「地下空間の豊かさがご家族の豊かさにつながることを願っている」と話す。

敷地が狭く、しかも三方向を建物に囲まれているハードな敷地条件だ。そのなかで目指したのは「躯体強化型エコハウス」である。日射取得が難しいため、断熱性や機密性をあげて躯体を強化しながらエコ化を計画している。

西方審査員は「南面は外付けブラインドがきれいにおさまり、デザイン的にも見せ所となっていて非常にいい」と称賛のコメント。一方で、「地下に日射をいれることは考えていたかどうか?」の質問も。伊礼審査員、松尾審査員からも「狭小の苦労が分かるが、窓の数や方向についてはどのように決めたのか」と、日射に対する質問が相次いだ。「窓の数はお客様と相談し、都会の喧騒から逃れて静かに暮らすことを考えた。それでもダイニングには窓の外側に緑化フェンス、裏には楓を植えて緑が見られる工夫をしている」と回答。前審査員からはダクト式エアコンについて、三澤審査員からは、屋上の耐用年数についての質問も。都会の狭い敷地ならではの考え抜かれたプランニングに、審査員一同から大きな注目が集まった。

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■受賞者のコメント
丸山氏: 大賞にノミネートされたことは、改めて「木と樹の家@小日向」と向き合い、それまで感覚的だったことを言葉として表現する貴重な体験となりました。
今後も、審査員の方より頂いた言葉と向き合いながら、都市部でのエコハウス建築に携わる建築士として飽くなき探求心を持って仕事に臨んでいきたいと思います。

■優秀賞/山弘「HYBRID CAMP」
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冒頭では、山弘の地域工務店としてのスタンスを紹介。「山弘では地域の植生をいかした素材の選定をして、里山が循環するような家づくりを行っている」とプレゼンテーターの中村将之氏。

敷地は兵庫県の淡路島の南部にある洲本市。自宅にいながら自然を感じられる建物をテーマに設計を進めた。敷地は平坦で開けているが、交通量が多いために閉じすぎず、開きすぎず、なおかつ環境を調整できる機能や心地よい居場所を同時に作り出せることが重要だと考えて設計している。

自然を感じられる具体的なポイントは南側の庭である。庭は、暮らしに合わせた「快適」を選択できる場所だ。晴れた日は外でバーベキュー、ご主人の趣味のサッカー、夏には子どもたちの水浴びも快適にできる。「暮らしのなかで快適を選択できる余白、快適の余白があることが人生を豊かにするうえで大事だ」と中村氏。大きく伸びた庇やベランダなどの半屋外を意図的に作り出し、庭同様、暮らしに合わせて選択できる場所として使っている。

伊礼審査員からは「地域の工務店がこのレベルまでできることは大変素晴らしい。また製材から家づくりに携わっている点も評価できる」とコメント。また伊礼審査員と西方審査員から半屋外の軒下空間へのこだわりや日射についての質問があった。「エコハウスというキーワードで考えると、凹凸のないシンプルでコンパクトな住宅が基本形だが、そこからの展開を考えると、下屋は一つのアイテム。生活の幅が広がる一つの要素として下屋がある。下屋の大きさ・長さについてはクライアントと相談しながら決めている」と回答。三澤審査員からは、プロポーションについての質疑も寄せられた。

家の中も外も、住まい手が自ら選んで快適さや自然を楽しめる。「HYBRID CAMP」という作品名に込められた家づくりの姿勢が強く伝わってきた。また、材料や職人など地域の資源を循環させるという工務店の姿勢にも脚光があたった。その地域にあった家づくりにつながることに対しても、これからの地域工務店の在り方として大きな期待が寄せられている。

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■受賞者のコメント
中村氏:実はお施主様が『建築知識ビルダーズ』の読者です。日本エコハウス大賞の受賞をお施主様に報告できるのは、格別嬉しいことだと感じています。ありがとうございました!

■優秀賞/山之内建築研究所「カスタマイズできる家」
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この住宅は、札幌から東に30kmほど離れた南幌町に建てた戸建て分譲住宅だ。戸建ての注文住宅のように、本当に住まい手が満足できるようにするためにはどうすればいいのか考えて、本当の住まい手が現れるまで「半完成品住宅」として時間をとめておくことを意識している。住まい手が現れたら、その住まい手といっしょに「カスタマイズ」していく。そういったコンセプトが企画の柱にある。

プランの特徴は、真ん中に母屋をつくり、その両端に小屋を付け加えるという考え方。この両端の小屋はカーポート、子ども部屋、ゲストハウスなどとして使うこともできる。母屋には大きな象徴的なハイサイドライトがあり、そこから冬場のダイレクトゲインを取り込む。

審査員からは、このハイサイドライトへの質疑が集中した。西方審査員からは、「ハイサイドライトがデザイン的にも効いていて美しい」と称賛。その一方で、「日射のダメージはないか?」との質問には「ほとんどありません」と設計者の山之内裕一氏が回答。建材に使われたブロックの蓄冷効果により、夏場無冷房でも26度の室温が保てていることが実証されている。蓄熱についてはデータの検証中とのことだ。松尾審査員からは、ハイサイドライトの製作費用について、三澤審査員からは暖房計画についての質問があがった。

「住まい手に育てられる住宅。住まい手が完成する住宅」という強いメッセージが込められた本作品。講評にもあったが、構造や形を含めて、「型にはまらない住宅」に一番挑戦していた作品であることは間違いない。住まい手が現れたときの住み心地についても、今後注目したい作品である。

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■受賞者のコメント

山之内氏:こういったレベルが高いコンテストで評価をいただくことができて嬉しいです。ありがとうございました。また気を引き締めて、建築に向き合っていきます。

■総評
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Ms建築設計事務所主宰/岐阜県立森林文化アカデミー客員教授
三澤 文子審査員

大変充実した時間、そして濃縮した時間を共有できて、素晴らしい経験をさせていただきました。書類選考で伝わってこなかったことも、やはり目の前でプレゼンを見ることでかなり理解を深めることができました。

そう思うと、リノベーション部門や他の作品のプレゼンも聞いたらもっと違う発見があったのでは?と素直に感じます。大賞はもちろん素晴らしいです。ですが本日、この場に来られなかった方々も大いに期待できるので、また来年チャレンジしてほしいと強く感じます。

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東京大学大学院工学系研究科建築学専攻准教授
前 真之審査員

受賞された皆さん、おめでとうございます。今回は、どの作品もエコハウスの基本性能はおさえていたので、やはり一歩踏みこんだエコハウスの快適性、楽しさ、社会性が問われた審査となりました。「こうでなければいけない」「こうでなければ間違っている」という、型にはまった話は卒業できるほどのレベルアップを感じます。

最優秀賞の「グランドピアノのある家」は、性能、意匠を含めてあらゆる意味で完璧に近いものでした。こういった設計事務所と工務店のコラボはもっと追求できると思います。さらに飛躍した作品を見てみたいと期待しています。

「木と樹の家@小日向」は断熱性能が高く完成されていました。断熱性能を高めるのは当然ですが、設備計画も含めて、上手な都市型住宅の形を見つけていってほしいです。特に小さな建物は空調計画が難しいので、プレゼンのなかで空調計画を詳しく話していただきたいというのが私からのリクエストです。そして、来年以降もぜひエントリーしていただきたい。こうやってお手本となる作品から、狭小地のベストプラクティスをみんなで共有できることに大きな意味を感じています。

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松尾設計室代表/
パッシブハウスジャパン理事
松尾 和也審査員

オーガニックスタジオ新潟の相模さん。最優秀賞の受賞、おめでとうございます。発表された瞬間のガッツポーズは忘れません(笑)。

今回、審査をしてきて、性能、パッシブデザインは足切りになっています。できて当たり前です。

最優秀賞の「グランドピアノのある家」は、一般的な敷地を読み解き方からかけ離れて、あえて今まで見たことのない空間に、しかも高いレベルで解いたことに価値を感じました。一般的な解き方を否定しているわけではありませんが、多くの作品を見ていると新しいチャレンジに目が留まります。書類選考の一次審査を想像してみてください。約80作品を3時間で審査するのは、ものすごいペースだと思いませんか? また来年、多くの作品に出会えることを楽しみにしています。

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建築家 
西方 里見審査員

日本エコハウス大賞は4回目となりました。あわせて『建築知識ビルダーズ』も発行を重ねて「スーパー工務店」という、デザイン力も技術力も高い工務店の紹介が多くされています。

雑誌を見ていると、厳しいようですが今までの既存の手法を学んで、きれいにまとめているだけの工務店もあるように感じます。もうちょっと冒険的で爆発的、そしてパワーがあって、時代を前に推し進めるようなものが出てくることを期待しています。それを私は応援していきたい。そして、時々そういった作品が出てきていることも事実なのです。

皆さん、これからもパワーがみなぎる「挑戦する作品」を手掛けてください。

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建築家 
伊礼智審査員長

プレゼンテーターの皆さん、お疲れ様でした。今日は4作品のうち3作品に建築家や設計事務所が携わっていて、1作品が工務店でした。こうやって一堂に集まると、建築家のプレゼン力の高さを感じます。逆にいうと、工務店にとってプレゼンは今後の課題だと感じます。

というのも、工務店の山弘は、山を持っています。その山で育てた杉を製材して家をつくっていて、無駄なく取り組んでいるんですね。これは設計事務所ではできないことですから、そういう家づくりへの取り組みをプレゼンすることも日本エコハウス大賞の評価軸になると思うんです。今後の方針として、応募者のバックグラウンドや取り組みを含めて審査することも必要だと感じました。

個人的には、今年の審査では「日射取得が足りない」とか「日射遮蔽に問題がある」とか、そういう否定はやめました。断熱性能が高くて機密がよければ、そんなに大きなダメージは受けないはずです。そういう高いレベルまでコンテストが成熟してきたように感じます。

また、来年の日本エコハウス大賞の展開も楽しみにしながらが、さまざまな案で応募してもらいたいと考えます。

■株式会社エクスナレッジ 建築知識ビルダーズ 編集長 木藤阿由子よりご挨拶
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2018年で4回目となった日本エコハウス大賞。このコンテストを設立しようと思ったきっかけは、2020年の省エネ基準義務化に向けて、メディアとしてできることは何か?を考えてのことでした。

まず、私は「押し付けられる省エネ基準」に嫌悪感がありました。しかし、そうは言ってもやっていかなければならないときに、「みんながやりたくなるような省エネ設計とはなんだろう?」と考えました。

『建築知識ビルダーズ』はメディアです。そこで、省エネ設計をポジティブに捉えてもられる情報の発信の仕方はないかと考えました。その結果、コンテストを開き「真似したい」「これならできそう」、あるいは「省エネ設計をやらないと時代に乗り遅れる」と、気持ちよく省エネ設計や高性能設計を考えられる空気をつくりたいと願いました。今回、4回目を迎えて、少しずつそういう空気ができているんじゃないかと実感しています。

省エネ義務化の法改正が見送られた、というニュースが出回っていますが、見送られたとしてもここにいる参加者の皆さんには関係ないことだと思います。

省エネ設計を底上げするには義務化は必要ですが、それよりも私たちがやっていくことは、「省エネを取り入れて設計された家が欲しい」と思える空気をつくっていくこと。それがこのコンテストの目的だと考えます。

昨年に引き続きこの日本エコハウス大賞が、「これからのエコハウス」というものを考えるきっかけになれば嬉しいです。

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ビルダーズ表紙

第4回日本エコハウス大賞の受賞作品の詳細は、
『建築知識ビルダーズno.35』でご覧いただけます。

取材 高橋かずえ
撮影 加々美義人