【第2回日本エコハウス大賞2016】グランプリは、設計島建築事務所に決定!

2016年10月27日(木)、東京ビッグサイトジャパンホームショーにて、第2回日本エコハウス大賞2016審査会を実施いたしました。

2016年のエントリー数は60作品、そのなかから書類審査を通過したものは40作品。すでに1次審査は終え、その審査を通過した大賞候補4作品の応募者による公開プレゼンテーションと、公開審査が行われました。

厳正なる公開審査の結果、最優秀賞は設計島建築事務所の「スキップするトンネルハウス」に決まりました。

このページでは、当日の会場にて行われたプレゼンテーションと質疑応答の様子をレポートいたします。

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最優秀賞:設計島建築事務所「スキップするトンネルハウス」

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プレゼンテーション&質疑応答レポート

設計者の自邸兼設計事務所として建てられた家。「私の妻は寒いと機嫌が悪くなり夫婦の危機。だから暖かい家を建てようと思った」と、エコハウスに挑戦した背景をユーモラスに話す姿が印象的なプレゼンでした。建築費用は1,700万円とのこと。

 

伊礼先生から「とても素朴で良い案。性能が少しだけ弱いと思うが、最終審査まで残ったのは建築としての魅力が勝負どころになったから」と評価がありました。

 

松尾先生からは「コスト、デザイン、性能のバランスが非常にとれていて、1,700万円でこの性能は真似できない」とコメントがありました。また、西方先生からは、「南北に長く、狭い間口においては3階の屋根からの日射を取ることも手立てのひとつにある」とアドバイスもありました。

 

コンテストの主催・木藤から「子ども室を通って主寝室に向かう間取りに不便はないか」と問われると、「いずれ子どもが大きくなってから造作壁などを作って仕切ることを考えている」と回答。家族の変化や生活の変化に対応できる間取りも、建物の魅力として考えることができます。

伊礼先生より講評

エコハウスの設計では「足るを知る」が大事です。この家は、敷地に無理なく溶け込んで、近所に迷惑をかけることもない配置で、適切なコストで創り上げられた建築でした。全作品のなかでも群を抜いてバランスの良い作品です。ただひとつ、自邸だということが気になるところではありますが(笑)

クライアントに対しても同じ質を保って良い建築を提供していってください。

 

 

受賞者のコメント

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私は独学で設計を勉強してきて、日本エコハウス大賞の審査員の方たちをお手本に取り組んでいたので、このような評価をいただけて感無量です。この家を作るきっかけを与えてくれた妻に、まずは感謝の言葉を贈ります。

 

 

 

 

大賞:吉岡昌一建築設計事務所「米原パッシブハウス」

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プレゼンテーション&質疑応答レポート

一次審査で議論にあった東向きの仕様と植栽計画、大きなワンルームのプランなどについて審査員から質問がありました。南向きではなく、あえて東に大きな開口部を作った計画には理由があり、母屋との関係性のほかに「山の景観を見ながら生活したい」という、施主の希望がこめられていました。

 

家の内部は大きなワンルームになっていて、むき出しに置かれたベッドが議論に。堀部先生からは、「LDKとベッドルームがワンルームの空間にあるが、本当に機能しているかどうか」と問われると、「カーテンを設置する計画もある」とのこと。また、「互いの気配を感じるプランを考えた」と吉岡氏からの回答がありました。

 

また一次審査において、プレゼンシートだけの情報を読みとって「庭」だと考えていた空間は夫婦の家庭菜園であることも分かりました。「施主はもうすぐ90歳になろうとしているのに野菜を作って暮らしている。それがご夫婦の生き甲斐のように感じます」と吉岡氏。

講評

伊礼先生:飽くなき追求と意欲を評価します。住まい手を考えるとシェードの取り外しが手間にならないか気になりますが、家庭菜園と住まいのつながりなど、住まい手に合ったプランが印象的でした。

 

受賞者のコメント

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「米原パッシブハウス」は、冬マイナス10度にもなる非常に寒い地域にあります。入念なシミュレーションを重ねた結果、設計に1年、施工にも1年と長い時間がかかりました。大変なプロジェクトでしたが、このように評価をいただけて嬉しいです。

 

 

 

大賞:夢・建築工房「和泉町の家」

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プレゼンテーション&質疑応答レポート

はじめに、夢・建築工房の会社説明と着工までの流れを説明した設計者。夢・建築工房には、省エネ住宅の「体感ルーム」あったり、断熱材の模型を使いながら断熱材の必要性を説明したりする取り組みがなされて、施主への知識付与にも時間をかけているそうです。

ノミネートされた作品の坪単価は79万円。質疑応答では、多くの審査員が坪単価の低コストに驚き、坪単価を下げるコツが話題のひとつになりました。設計者からは「見積もりを出すときに、一つ一つの項目を施主と見直す。予算と合わなければ、外壁を自分たちで塗ったり、支給品を増やしたりしてコストを下げている」との回答がありました。

また、2階リビングのプランにも注目が向けられると、「1階か2階か、リビングの場所には時間をかけて悩んだ。しかし、施主は窓を開けてオープンな生活がしたかったため、視線を感じない2階リビングを希望した」とのこと。

伊礼先生からは、「土間と玄関まわりが庭とのつながりを持たせること。敷地と建物、周辺環境と建物のつながりがあればもっと良い建築になる」と、アドバイスもありました。

 

講評

西方先生:設計者はキャリアが少ないと話していますが、実績があるからこそ、このような坪単価が実現しました。建築の経験と積み重ねがあるからこそできたことでしょう。バランスの良さや適切な工数、デザインを評価します。

 

受賞者のコメント

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まだ経験が少ない私たちに対し貴重な指摘をいただき、ありがとうございました。この受賞を励みに、これからも頑張って性能とデザインを追求した家を作っていきたいです。

 

 

 

大賞:トヨダヤスシ建築設計事務所「ならやまの家」

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プレゼンテーション&質疑応答レポート

ノミネートされた「ならやまの家」の住まい手は、構造設計事務所を営んでいます。施主の協力もあり、「エコへの挑戦」ができた点を最初に述べていました。家の大きな特徴といえば、伝統的な土壁。土壁を取り入れるにあたり、工期短縮や強度アップの方法などもプレゼンのなかにあって、たくさんの工夫がちりばめられた様子がよく分かりました。

松尾先生からは、「これだけ断熱に力を入れているのに、熱損失の高い窓に木製建具の使っているのはもったいない」と質疑があると、「木製建具を使っているのは玄関のみ。他の部分はフレームの厚みと意匠とのバランスを考慮して、アルミ樹脂複合サッシを選択した」と応答。

伊礼先生からは、「実力のある設計者だからこそ、もっと建築の魅力を知りたい。写真をひと目見ただけで分かる建築の魅力が欲しい」と次回へのエールが送られました。また伊礼先生は「建築のコンセプトに走ると建築が痩せる。エコも同様にエコに走ると建築自体の魅力が痩せる」とエコハウスへの見解を話し、それを理解したうえで今回の随所にちりばめられた創意工夫を大きく称えるコメントを送っていました。

 

講評

西方先生:設計者には実績があり、これまで多くの積み重ねがあったからこそ実現した作品です。これからも土壁における蓄熱など、研究をよろしくお願いいたします。

 

受賞者のコメント

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関係者に協力していただいたからこそ実現した作品です。施主の奥様から「吹き矢ができる場所が欲しい」という一言があって、このようなプランができあがりました。まずは、この場に導いてくれた奥様にこの賞を差し上げたいと思います。

 

総評

伊礼先生「有意義な議論が行われた審査が印象的」

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今年から堀部安嗣さんに審査に加わっていただいたことで、前年以上の深みのある議論が重ねることができました。

この公開審査が行われる以前に、一次審査がありました。そのとき、まず投票をしてから議論を重ねて、ノミネート作品を選んだという過程があったのですが、実は当初上位にあった作品は残っていなく、有意義な議論をして様々な方面から考え抜かれた結果この4作品が残りました。その一次審査の議論が印象に残っています。

次回に向けての希望としては、建築としての魅力があり、楽しさや心地良さを考えた作品を。このような作品の応募を来年は期待しています。

 

堀部先生「建築に、もっとロックンロール魂を」

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僕は温熱や性能のステージでは新参者で、それらについて誤解していた部分がありました。参加する前まではこのように感じていたんです。「審査員の先生たちにはひとつの教科書があり、その教科書に沿って審査をしているのではないか」と。しかしそれは違っていたのだとすぐに分かりました。

応募作品のなかには、僕が想像していたような教科書的な作品もありましたが、結局最後に残った作品はそうではありません。先生方の議論は、教科書に沿うような建築ではなく、例外を認めることに重きを置いていたように感じます。結果、例外を認めざるを得ない作品がノミネートされました。それは音楽でいうならば、ロックンロール魂を感じる作品とも言えるでしょう。

ですから、設計者のみなさんには、「本当に教科書通りに作ることが大事なのか」と問題提起しながら取り組んで欲しいと思います。ロックンロール魂を持ち、もっとチャレンジングな作品に期待しています。

 

西方先生:「来年は北海道からの応募に期待」

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レベルの高い建物が揃ったコンテストでした。質疑応答では様々な質問をさせていただきましたが、その質問の意図は私が設計をするうえで悩み、考える部分でもあったので、受賞している方たちがどのような考えを持っているのか知りたかったからです。

去年も今年も、東北からの応募が多くありましたが、北海道の作品は案外少ない印象でした。私は、北海道の建築にはまた本州とは違ったデザインテイストがあると感じていますので、来年は北海道からの応募に期待しています。

 

松尾先生:「費用対効果の良さに注目して」

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去年の応募作品は、次世代省エネ基準スレスレの作品が多かったのですが、今年は土俵が変わったかのようにHEAT G2レベルの高いクオリティの作品がほとんどでした。

性能が高くなると、審査の基準は必然的に設計に目が向きます。設計においても、1年でここまでトップランナーのレベルが上がるものかと、非常に驚かされました。

今年の作品は蓄熱や、土壁、草屋根などに注目したものが多かったように感じます。それを取り入れることは悪いことではありません。しかし性能の費用対効果で考えると、そのような工夫を取り入れる前にもっと違う選択肢があったのではないかと感じることもありました。今後もこのようなコストパフォーマンスの良さに注目して審査を行っていきたいと思います。

 

前先生:「UA値だけではない幅広い判断基準を」

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他の先生方が話していたように、今年はレベルが高い家が出揃ってUA値だけでの判断はできなくなりました。私は、周辺環境や気候、住まい手の願いに寄り添っていくことがどれだけできるだろうかと、家づくりの原理原則を考えていました。

また、「バランスが良い」という表現を、今後どのように捉えて行くのかも課題のひとつに感じています。もはやUA値だけでは競争できないばかりか、日本においても各地域の環境が変わるため、単純に計算できるものではありません。もっと快適な温熱環境になるよう、UA値と何かを掛け合わせるなどして、幅広い判断基準ができて行くと良いのではないでしょうか。

 

主催者:株式会社エクスナレッジ『建築知識ビルダーズ』編集長 木藤阿由子より

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2016年で2回目の開催となった日本エコハウス大賞。私にとっては肝煎りのイベントで、この日が訪れることを心待ちにしていました。この賞を立ち上げた理由は、「注文住宅」という分野をもっと応援して、注文住宅ならでの美しいデザインの魅力を発信していきたいと考えたからです。

そうしたなかで、意匠だけでもなく、性能だけでもなく、本当の理想の形はどのようなものなのか、この日本エコハウス大賞を通して追求していければ幸いです。

第二回日本エコハウス大賞に応募してくださったみなさん、本当にありがとございました。そして受賞者のみなさん、おめでとうございます。