日本エコハウス大賞2019

大賞

設計島建築事務所

スキップするトンネルハウス

施工:分離発注方式 Q値=0.40W/㎡k ηA値=2.4 一次エネルギー消費量/62.3GJ/年

宮城県仙台市内を流れる河岸段丘の中腹に位置するこの敷地は、間口が6m、奥行き21mの細長い形状で、背後に急傾斜の雑木林を擁する。小さく建てて広く住む――狭小地の家の鉄則である。限られた空間を広く使うために、いたずらに部屋を仕切らず、家全体を快適に保つために外皮性能を高め、エネルギーを効率良く使う室内環境を目指した。
 また、冬期の日射を最大限得るため、正面(南西)と裏(北東)の両サイドは間口いっぱいに窓を設け、トンネル状の空間とした。その結果、春から秋にかけて涼しい川風が屋内を吹き抜けていき、北側の窓の外には雑木林の緑が広がる気持ちよい空間となった。断面構成は、敷地のコンテクストに従って、川側から山側へとスキップする4層2階建てである。2カ所に設けた吹抜けが、熱を循環させる環境装置として機能する。
 このほか、この家では建設廃棄時のエミッションを少なくする試みもしている。構造材には、ウッドマイレージの少ない地元の木を使い、露わしている。内壁は土に還る耐力面材(モイス)で仕上げを兼ね、「化粧」はほとんどしていない。目に見えるものすべてが機能的な意味をもつ。これは、ハリボテ化する昨今の住宅へのささやかな抵抗であり、素材の意味や本質に迫ることでエコの本質に近づけるのではないかと考えている。

DATA

設計 設計島建築事務所
施工 分離発注方式
所在地 宮城県仙台市青葉区
家族構成 夫婦、子供2人
構造 木造在来工法
敷地面積 124.18㎡
建築面積 49.46㎡
延床面積 76.83㎡
完成年月所 2016年4月

省エネルギー性

UA値 0.40W/㎡K( Q値:1.43W/㎡K)
η値 2.4
C値 0.68c㎡/㎡
一次エネルギー消費量 69.6GJ/年
地域区分 4
屋根・天井 セルロースファイバー60K 300㎜
外壁 セルロースファイバー60K 145㎜
床・基礎 外・スラブ下:防蟻XPS-3b 50㎜ 内:XPS-3b 25㎜
APW330真空トリプル、トリプルスマージュ、
木製サッシ「エコスライド」
気密 防風透湿シート「トリオプラス」(ウルトジャパン)
その他 天然スレート床と土壁に蓄熱
冷暖房 暖房:薪ストーブ、床下エアコン:パナソニックUX(補助)
冷房:エアコン(予定)
給湯 エコジョーズ(リンナイ)、太陽熱温水器
換気 ダクトレス第一種熱交換換気システム(ルノサン)
創エネなど
その他
  • 狭い間口のほぼ全面を開口部とし、軒と側壁で日射遮蔽をしている

  • 南庭の秋保石のテラスから続く土間のダイニング

  • 室内は柱梁を露しにした真壁づくり。 薪ストーブ脇のRC壁に蓄熱する

  • 南面大開口は冬の日射取得を重視し、あえてLow-E複層ガラス(日射熱取得率0.74)を採用。冬は、天然スレートを敷いた床と 吹抜けの土壁に集熱、蓄熱する。夜間は、ハニカムブラインドで熱損失を抑えている

  • 南西側外観。側面にはほとんど窓を設けていない

  • (右)配置図S=1:400
    (左)平面図S=1:200

  • 南北に抜けるトンネル状の空間は、スキップフロアで構成さ れる。リビングの床下は、キッチン脇から出入りでき、エア コンの吹出しを妨げない範囲で収納として利用。配管類の点 検も容易

  • 2階の主寝室の構造は露しとなっている

  • リビングから、吹抜けを見上げる。跳ね上げ屋根のハイサイドライトから自然光が差し込む。夏は熱気を排出し、冬は吹抜け上部のファンで頂部に溜まった暖気を床下に送る

  • 断面図S=1:100

  • 住宅性能と年間暖房用電気使用量(kWh)の比較

  • 開口部の日射熱取得と熱損失の比較

  • 建築地の年間外気温度

審査員講評

 温熱的に不利な南北に細長い敷 地に建つこの家は、設計も容 易ではありません。しかし、このよう な困難な条件を生かし、南面を大きく 開口して日射取得に工夫を凝らした点 が設計の一番の魅力となりました。外 構や周辺環境との呼応も良く、利他的 な視野を持っている点も審査対象にな っています。また、図面を見てみると 無駄がなく納まった断面構成に、設計 のうまさを感じます。ところどころに 施された土壁の職人技など、総合的に 良い仕事がなされている家でした。意 匠だけでなく、もちろん性能面に関し ても熟考されています。